コラムコラム

啐啄の機に備える

2022.05.19

ロシアのウクライナ侵攻は、一向に出口が見えません。プーチンもプロパガンダや情報統制で、国民が見たいものを見せないようにしています。

 

しかし、全ての情報を監視できるはずもなく、戦争が長引けば、国民の不信感が増し、大統領の支持率も下降していくでしょう。プーチンはどこに向かっているのでしょうか?

 

*

 

プーチンの父親は機械技師、母親は工場労働者で、貧しい幼年期を送っていたようです。1941年の第二次世界対戦の時に2人の兄を病死で亡くし、母が餓死寸前の生活困難状態に陥りました。

 

プーチンは過去にタクシーの運転手を経験しながらもKGBスパイとして東ドイツへ配属されました。当時から、敵はNATOという思想があったようです。

 

1989年にベルリンの壁の崩壊を目撃し、1991年にソ連崩壊を経験しました。ソ連が崩壊したのは西側諸国のせいだと思い込み、いつか、過去の恨みを晴らす目的を頭の隅に持ちつつ2000年にロシア大統領に就任。現在に至ります。強いロシア、強い自分の幻をずっと探し求めているんでしょうか?

 

 

このコラムの読者は、経営者であっても、会社員であっても、リーダーシップマインドを持って、自らの道を切り拓いていこうという方だと思います。リーダーの資質、リーダーの行動という面で、プーチンの動向とロシアの行く末を見ていくと、また違った見方ができるのだと思います。リーダーが求める世界観を組織にどうやって組み込み、その世界観を実現していくのか。

 

答えはありません。

 

*

 

そんなことを考えていて、今日は一冊の本を紹介します。本のタイトルは、『悪童日記』です。ご存知の方ももいらっしゃるでしょうか?2013年には映画化もされました。

 

著者は、アゴタ・クリストフ。原作は1986年で、日本では2014年に翻訳本が出版されました。

 

 

タイトルからして凄いですが、作品も凄いです。50歳を過ぎた独学の主婦が描いたものとは信じ難いです。本作品にはクリストフの自伝的要素が紛れこんでいますが、固有名詞が一切使われていません、クリストフがそれを特定することを意図的に避けているようです。

 

 

蛹は葛藤の塊です。蛹の中では、芋虫の身体のほとんどがドロドロに溶けてしまいます。蝶になるためには自己を再構築しなければなりません。クリストフが読み手に問うたのは、蛹と蝶のどちらの一生を選び取るのかでした。

 

クリストフは1944年にクーセグへ移り住みます。ソ連の軍事介入後に西側への脱出を経験し、結婚、離婚、再婚を経て3人の子を育てた。スイスの大学でフランス語を学び、執筆を続け、初めて世に出した小説が本作品。原題の意味は、「大いなるノート」ですが、訳者の堀茂樹は『悪童日記』と題しました。洒落ていますね。

 

 

戦禍を逃れて、主人公の双子の男の子はおばあちゃんの家に疎開するところから物語は始まります。

 

おかあさんと離れ、無秩序な世界に産み落とされたわけです。暴力、貧困、労働に耐える日々。そこで、ぼくらは決意します。真実だけを記すというルールで日記をはじめるのです。自分を誑かして、大人が見る世界に取り込まれてはいけない。自分たちの目に映る事実だけを信じる。あとは実践あるのみです。

 

 

主人公は双子の男の子であって、主語は常に<ぼくら>です。これは、ぼくの中にもう一人のぼくが潜むとも読めます。乞食の練習、盲と聾の練習、断食の練習…。どれも人間が持つ執着心と罪悪感の深層を覗くためのものです。

クリストフは、そこに何を描きたかったのでしょうか?

 

戦争など望まず、ただ家に帰ることを望む脱走兵には食糧と毛布を与える。死にかけている隣人を救うためには、司祭をゆすり、万引きもする。おばあちゃんが心から望んだ自殺のほう助もする。それが、ぼくらが生きるために絶対に必要な真実でした。

 

 

戦争の動乱は人間の狂気を生み出します。それでもクリストフが描いたように、人生の真実を日記に書き綴ることを止めてはいけないと思います。一心同体だったぼくらは、最後に別々の生き方を選択することになります。私は、もう一つの国へ去るぼくを選んでみたいです。そこで、新しい日記をはじめます。蛹から蝶になるとはそういうことです。

啐啄の機に備えなくてはいけません。

 

 

今日は、読書感想文みたいになりましたが、『悪童日記』は、世界が混迷を極めている今、多くの人に読んで頂きたい本です。特に、プーチンには。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【試してみませんか?】
『ビジネスと人生の転機を乗り越える方のにわか相談』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

奥富 宏幸
\この記事を書いた人/ リーダーシップ&キャリアデザイナー

奥富 宏幸 - Hiroyuki Okutomi -